またひとつ、心を揺さぶる珠玉の名作が誕生した。旅立ち、家族の絆と愛情、人々との出会い、初恋、そして生きていくこと…『サイダーハウス・ルール』は、大人になる過程で誰もが経験する道のりを優しく爽やかに描く感動作である。「ガープの世界」「ホテル・ニューハンプシャー」など独特の作品世界で知られる米現代文学の巨匠ジョン・アーヴィングが自身の同名ベストセラーを脚色、『ギルバート・グレイプ』『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のラッセ・ハルストレムが、みずみずしい映像と視点で描き出した。ナショナル・ボード・オブ・レビュー脚本賞受賞をはじめ、本年度アカデミー賞では主要7部門にノミネートされ、助演男優賞、脚色賞を受賞するという快挙を成し遂げた。 |
メイン州ニュー・イングランド。ホーマー・ウェルズはセント・クラウズの孤児院で生まれ育った。ラーチ院長の「人の役に立つ存在になれ」という言い付けを守りつづけて成長した彼は、院長の仕事―助産と当時禁止されていた堕胎―を手伝うようになる。成長するにつれ自分の未来に疑問を持ち始めた彼は、ある日手術に訪れたキャンディ・ケンドールとその恋人ウォリー・ワージントンと共に孤児院を飛び出した。初めて見た海、ドライヴイン・シアター、ロブスター、そして初めての恋。セント・クラウズ以外の場所を訪れたことのなかったホーマーは驚きの目で新しい世界を発見して行く。ウォリーの誘いで、彼の母が経営するリンゴ農園で働き、収穫人たちの宿舎“サイダーハウス”で暮すことになったホーマー。新しい生活と人々との出会いの中で彼は何を見出していくのか…。 |
“若者は自分の未来を探して、広く遠く旅をする。悪を倒すという夢や、めくるめく恋への期待、一攫千金の野望を胸に抱いて”。だがセント・クラウズの孤児院で生れ育ったホーマーにとっては、生きていられること、それだけで満足なはずだった。キャンディとウォリーとの出会いが、彼にも無限の未来が広がっていることに気付かせてくれる。孤児院からの旅立ち、キャンディとの恋、リンゴ摘みの季節労働者たちとの生活を通して、ホーマーは「生きていく」本当の意味を知る。それは、誰に押付けられるものでもなく自分自身で生き方を見つけ、自分自身の足でその道を歩いていくこと。そしてまた、人は決して一人で生きているわけではない。天涯孤独で生まれたホーマーにも、すぐそばに暖かく見守ってくれている人がいるということ。そのことに気づいた時、ホーマーは少年から大人へと成長を遂げる。大人になる時に誰もが経験する普遍的な物語が、鮮やかにそしてファンタジックに描き出されていく。ホーマーが辿る心の旅は、淡い懐かしさとともに暖かい微笑みと爽やかな感動を感じさせてくれるだろう。 |
ジョン・アーヴィングが最初に映画化の構想を立上げたのは1986年のこと。幾度かの企画変更や監督の交替を経てもあきらめることなく、熟考とリライトを重ね、脚本を熟成させてきた。彼の念願の映画化はラッセ・ハルストレムとの出会いによって現実のものとなった。小説と映画とでジャンルは違ってはいても、二人の作品には共通点が多い。独特の世界感、特異な環境とその中に生れるおかしな状況、その一方で常に現実を鋭く見据えた作品を作り上げてきた。似た者同士とも言える彼らの素晴らしいコラボレーションが生み出した奇跡の結晶が本作なのである。 |
ホーマー・ウェルズを演じるのは『カラー・オブ・ハート』のトビー・マグワイア。純粋無垢さと成熟とを同時に感じさせる静かな視線が強い印象を残す。 彼の父親的存在であるラーチ院長には『リトル・ヴォイス』のマイケル・ケイン。型破りな中にも限りない愛と慈しみを感じさせる見事な演技で、アカデミー賞助演男優賞を始め各賞の助演男優賞にノミネートされている。 ホーマーの初恋の相手となるキャンディ・ケンドールには『ノイズ』のシャーリーズ・セロン。明るく純粋で、ホーマーを導くとともに自身も成長を遂げていく重要な役割を演じている。 サイダーハウスのリーダーであるミスター・ローズには「普通じゃない」のデルロイ・リンド。映画化構想の誕生当時から本作に関ってきた彼は、風格とその裏に隠された人間が持つ矛盾を漂わせる複雑な役柄を見事に演じている。 ホーマーと対照的に無謀で天真爛漫なウォリーには『ロミオ&ジュリエット』のポール・ラッド、ホーマーを慕う孤児バスターに『マイ・フレンド・メモリー』のキーラン・カルキン、そして人気ミュージシャンのエリカ・バドゥとヘヴィ・Dが俳優顔負けの存在感と演技力を見せている。また、アーヴィング自身セント・クラウズの駅長役で特別出演を果している。 子供の描写には定評のあるハルストレムだが、本作でも忘れてならないのは孤児院の子供たち。現地でのオーディションで選ばれたいずれも無名の子供たちながら、笑顔とその裏に宿る寂しげな表情がいつまでも心に残る。 |
さっぱりとしたモノトーンと、その中にアクセントで付加えられる鮮やかな色。アンドリュー・ワイエスの絵画を参考にして創り出された懐かしい田舎の風景。純白の雪、深緑の森、真紅のリンゴは、スクリーンから薫りたつような瑞々しさを感じさせる。プロダクション・デザインのデイヴィッド・グロップマン(『マイ・ルーム』)、編集のリサ・ゼノ・チャージン(『デッドマン・ウォーキング』)、音楽のレイチェル・ポートマン(『エマ』)らが、観客を引込まずにはおかない素晴らしい世界を作り出して絶賛を浴び、三人ともにアカデミー賞にノミネートされている。そのほか、撮影監督のオリヴァー・ステイプルトン(『ハイロー・カントリー』)、衣装デザインのレネー・エールリッヒ・カルフュス(『デッドマン・ウォーキング』)、製作のリチャード・N・グラッドスタイン(『パルプ・フィクション』)、共同製作のアラン・C・ブロンクイスト(『ギルバート・グレイプ』)など、アーヴィングとハルストレムの熱意を完全なものにすべく実力あるスタッフたちが揃った。 |
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ラーチ院長の仕事、それは分娩と当時禁止されていた堕胎だった。産んでも育てられない子どもを宿し、行く当てのなくなった女性を「救うため」に行っていた。彼は父として、ホーマーに自分と同じ道を進んで欲しいと望み、ホーマーもまた、その思いを受けて次々と新しい医術を学んでいった。 青年となったホーマーは、院長や看護婦とともに孤児の面倒を見ていた。孤児院には、ホーマーの次に大きいバスター、気管支を患っているファジー、なかなか引きとりてのない少女メアリ・アグネスを始め、たくさんの子供たちが生活し、家族が見つかるのを心待ちにしていた。 |
ホーマーは分娩の手術も立派にこなすようになっていた。しかしどんなにラーチが言い聞かせても決してやらないことが一つあった。それは堕胎の手術だった。もしかしたら自分もこの世に生まれてこなかったかもしれない。そんな思いから、それがたとえ「女性を救う仕事」であったとしても赤ん坊を殺すことなどできなかった。 |
孤児院に穏やかな日々が流れる中、ある日ホーマーの前に堕胎の手術のためにキャンディ・ケンドールと、その恋人の軍人ウォリー・ワージントンが現れる。ホーマーは同じ年頃の二人を見て、明るい未来を感じ、外の世界に強くひかれるのであった。そして孤児院を出て行くことを決断する。 「旅立つには、幼すぎる」 ラーチ院長の目にはまだ子どもに写っていたホーマーが言い出した突然の旅立ちの申し出に、ラーチは戸惑い彼に留まるよう説得するのだった。しかし、ホーマーの強い意志と確固たる思いは揺るがなかった。 「外の世界に行って、別の道で役に立ちたいんだ」 |
外の世界は考えていた以上に彼を驚かせた。初めての海、初めてのドライヴイン・シアター、初めて見るたくさんの映画、初めて体験するロブスター漁。そして、外での初めての仕事―リンゴ園での収穫作業はホーマーに多くの事を教えてくれた。 彼は、リンゴの収穫とともに移動する労働者たちと、“サイダーハウス”と呼ばれる小屋で寝起きを共にした。収穫作業のボスであるミスター・ローズとその仲間たちが彼と一緒だった。ミスター・ローズはボスとしてホーマーに様々なルールを教えてくれた。そして、サイダーハウスの壁に掲げられた注意書きを見ながらこう言った。 |
「これを書いたのはここに住んだことのない奴だ。俺たちのルールは俺たちで決めるだけだ」
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トビー・マグワイア |
シャーリーズ・セロン |
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ホーマー・ウェルズ/Homer Wells | キャンディ・ケンドール/Candy Kendall | ||
デルロイ・リンド |
ポール・ラッド |
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ミスター・ローズ/Mr. Rose | ウォリー・ワージントン/Wally Worthington | ||
マイケル・ケイン |
ジェーン・アレキサンダー |
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ウィルバー・ラーチ医師/Dr. Wilbur Larch | 看護婦エドナ/Nurse Edna | ||
キャシー・ベイカー |
エリカ・バドゥ |
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看護婦アンジェラ/Nurse Angela | ローズ・ローズ/Rose Rose | ||
キーラン・カルキン |
ケイト・ネリガン |
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バスター/Buster | オリ−ヴ・ワージントン/Olive Worthington | ||
ヘヴィ・D |
K・トッド・フリーマン |
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ピーチズ/Peaches | マディ/Muddy |
キャスト
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CAST
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監督 Director |
ラッセ・ハルストレム LASSE HALLSTROM |
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原作/脚色 Author, Screenwriter |
ジョン・アーヴィング JOHN IRVING |
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製作 Producer |
リチャード・N・グラッドスタイン RICHARD N. GLADSTEIN |
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共同製作 Co-Producer |
アラン・C・ブロンクィスト ALAN C. BLOMQUIST |
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撮影監督 Director of Photography |
オリヴァー・ステイプルトン,B.S.C OLIVER STAPLETON, B.S.C |
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プロダクション・デザイナー Production Designer |
デイヴィッド・グロップマン DAVID GROPMAN |
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編集 Editor |
リサ・ゼノ・チャージン LISA ZENO CHURGIN |
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衣装デザイナー Costume Designer |
レネー・エールリッヒ・カルフュス RENEE EHLRICH KALFUS |
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音楽 Music By |
レイチェル・ポートマン RACHEL PORTMAN |
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1999年アメリカ/ミラマックス・フィルムズ提供/フィルム・コロニー作品 カラー/2時間6分/スコープサイズ/ドルビー・デジタル/日本語版字幕:石田泰子 原作:文春文庫/サウンドトラック:ソニー・クラシカル 関連書籍:ジョン・アーヴィング著「マイ・ムービー・ビジネス」扶桑社刊 提供:アスミック・エース エンタテインメント、テレビ東京、角川書店 配給:アスミック・エース |